アルテミス2月面ミッション:何が起きたか — 宇宙からの写真と動画
2026年4月10日、東部時間20時07分、カプセル”Integrity”がサンディエゴ沖約65〜80キロの太平洋上に着水した。4名の宇宙飛行士が宇宙で過ごした時間は9日間1時間32分、飛行距離は約112万キロ、そして有人飛行の最遠記録として地球から40万6,914キロを達成した。1972年以来初となる地球低軌道外への有人飛行が、こうして幕を閉じた。NASA長官ジャレッド・アイザックマンは着水を”完璧な命中”と表現した。
Artemis IIは月周回ミッションです。クルーは月を周回して帰還します。人類が実際に月面に降り立つのはArtemis IV、2028年初頭の予定です。Artemis IIはそこへ至るための重要な一歩ですが、月面着陸そのものではありません。
宇宙から撮影した月と地球の写真 — Artemis IIミッション
打ち上げ:その瞬間
2026年4月1日、全高98メートルのSLSロケットがケネディ宇宙センター39B発射台を離れた。YouTubeでのライブ配信には1,700万人が同時接続した——サッカーW杯決勝の視聴者数に匹敵する数字だ。フロリダのビーチ沿いには数千人が集まり、大西洋上空を飛ぶ飛客機の乗客がポートホール越しに打ち上げを撮影する動画も拡散された。
ここまで来るのに時間がかかった。当初の打ち上げは2月5日の予定だったが、冬の嵐、初回燃料注入時の液体水素漏れ、そしてヘリウム系統の不具合と、3度延期された。4月1日の3回目の試みでようやく成功した。
Artemis IIの打ち上げ映像はInstagramでも多数シェアされた。フロリダ上空を飛ぶ飛行機のポートホールから捉えた映像もその一つだ。
月への再挑戦、その経緯
人類が最後に月面に立ったのは1972年12月——Apollo 17ミッションだ。以降50年、国際宇宙ステーション、火星探査機、宇宙望遠鏡と歩みを進めてきたが、月だけは遠ざかっていた。
流れが変わったのは2017年。トランプ大統領が宇宙政策指令に署名し、NASAの月探査プログラムが正式に復活した。2019年にはプログラム名がArtemis(アルテミス)と命名された——ギリシャ神話の月の女神であり、アポロンの双子の妹でもある名前だ。Apollo計画の次の一手として、実に象徴的な命名といえる。
ただし、復帰の背景にあるのはロマンだけではない。中国が2030年までの有人月面着陸と、ロシアとの共同による月基地建設計画を発表したことへの対応だ。米国はArtemisプログラムとArtemis Accords(月探査の原則に関する国際協定、現在61カ国が署名)で応じた。NASA長官のジャレッド・アイザックマンは率直にこう語った:“大国間の宇宙競争において、時計は刻々と刻んでいる”。
中国の月探査計画と世界の宇宙開発への影響については、RAND Corporationの分析が詳しい。
2022年11月、無人のArtemis Iが月周回飛行を成功させ、機体の動作確認を終えた。Artemis IIは初の有人飛行だ。実際に人が乗った状態で深宇宙における生命維持システムと航法がどう機能するか——そのデータを得ることが今回の核心にある。
Artemis IIのクルー
4人の宇宙飛行士——アメリカ人3名とカナダ人1名。全員がベテランだが、これほど月の近くまで来たのは誰にとっても初めてのことだ。
リード・ワイズマン(船長)——米海軍のテストパイロット出身で、国際宇宙ステーション(ISS)の元船長。Apollo以来の月探査クルー最年長メンバーでもある。2016年にはX(旧Twitter)で”月軌道を飛ぶ夢を見た。夢だったと気づいて落ち込んで目が覚めた”と投稿していた。10年後、本物になった。
ビクター・グローバー(パイロット)——米海軍大佐。2020年にSpaceX Crew-1ミッションでISSに滞在した経験を持つ。最遠距離記録を更新した瞬間、クルーを代表してメッセージを読み上げたのも彼だ。低地球軌道外を飛行した初のアフリカ系アメリカ人となった。
クリスティーナ・コッホ(ミッションスペシャリスト)——電気工学の専門家で、女性として最長のISSへの連続滞在記録(328日)の保持者。低地球軌道外を飛行した史上初の女性だ。”月面に立つ最初の女性にはなれないけれど、どう思うか”と問われ、静かにこう答えた:”それでいい。これが宇宙での運命というもの”。
ジェレミー・ハンセン(ミッションスペシャリスト)——カナダ空軍大佐で、カナダ宇宙庁(CSA)の宇宙飛行士。月へ飛んだ初の非アメリカ人となった。参加の背景には米加の協定がある——カナダが将来の月面基地向けにロボットアーム技術を提供する代わりに、アメリカはカナダ人をクルーに加える約束をした。
ビクター・グローバーは低地球軌道外を飛行した初のアフリカ系アメリカ人。クリスティーナ・コッホは同初の女性。ジェレミー・ハンセンは初の米国外出身者。この3つの記録がひとつのミッションで同時に達成された。
月のそばで何が起きたか
4月6日、”Integrity”は月面から6,543kmの距離を通過した。”Integrity”が月の裏側を回る40分間、地球との通信は完全に途絶えた。その間、クルーは日食を目撃した。太陽が月に隠れ、地球上では数年に一度の皆既日食のときにしか見えないコロナ(太陽の外層大気)が視界に広がった。
4月7日13:56(EDT)、”Integrity”はApollo 13クルーが56年間保持してきた記録——地球から248,655マイル——を塗り替えた。新記録は252,760マイル、約6,600km上回った。グローバーはクルーを代表してこう読み上げた:”先人たちの偉業を讃えるとともに、現在と未来の世代に挑む——このレコードが長続きしないことを願って”。
その後、クルーは予期せぬことをした。ポートホール越しに月面を観察していたところ、名前のついていない2つのクレーターを見つけた。クルーは命名を提案した。一つ目は船の名前にちなんだ“Integrity”。二つ目は“Carroll”。グローバーはゆっくりと、間を置きながらその名を読み上げた——船長ワイズマンの妻キャロルは、このミッションの訓練が始まった2020年に癌で他界していた。クレーターは月の表側と裏側の境界に位置し、特定の時期には地球からも見えるという。
Sky Newsによる3時間のライブ配信は、記録更新の瞬間とその後の月周回の一部始終を収めている——ミッションコントロールへの船内からの電話、クルーによる月面観察、そして”Carroll”クレーター命名の告知まで。宇宙中継がまるで人間ドラマのように見える、めったにない映像だ。
地球への帰還:4月10日
ミッション最後の13分間が、最も緊迫した時間だった。EDT19時53分、カプセルは時速約4万キロ——音速の35倍——で大気圏に突入。ヒートシールド表面の温度は2,200〜2,800°Cに達した。6分間、カプセルはプラズマに覆われ、地上との通信が完全に途絶えた。信号が回復したとき、管制センターが最初に聞いたコマンダー・ワイズマンの声はこうだった。”Houston, Integrity, we have you loud and clear”。その後、11基のパラシュートが開き、EDT20時07分27秒、”Integrity”が海面に触れた。
USSジョン・P・マーサに乗艦する宇宙飛行士たちは、膨張式ラフトを経由してヘリコプターで2名ずつ順番に引き上げられた。クリスティナ・コッホが最初にカプセルを出て、リード・ワイズマンが最後となった。4名全員が自分の足で甲板を歩き、車いすを断った——10日間の無重力飛行の後でも、だ。甲板に立ったワイズマン・コマンダーはこう語った。”ジェレミーがキャロルの名前を口にした瞬間、私たちは全員崩れ落ちそうになった。あの瞬間が、私にとってミッション全体のクライマックスだった”。
総飛行距離111万8,007キロ ── 最遠記録40万6,914キロ ── 宇宙滞在9日間1時間32分 ── 着水精度1マイル以内 ── 宇宙飛行士4名、全員健康。
トランプ大統領は着水直後に祝福のメッセージを発表し、クルーをホワイトハウスに招待した——具体的な訪問日はまだ発表されていない。さかのぼること4月6日、大統領はホワイトハウスからクルーと12分間のライブ通信を行っていた。大統領が月周回中の宇宙飛行士と直接会話したのは、50年以上ぶりのことだ。
ミッション後に残る最大の課題は、ヒートシールドの状態だ。2022年のアルテミスIでは、帰還したヒートシールドに100カ所以上の損傷が見つかった。アルテミスIIに向けてNASAは大気圏突入の軌道とシールド素材を変更している。着水直後にダイバーがシールドを撮影しており、その分析結果が次のミッションまでに変更が必要かどうかを左右する。NASAの幹部は”月面への道は、これで開かれた”と述べている。
この先どうなるか
Artemis IIは検証のためのミッションだ。実際に人が乗った状態で深宇宙における生命維持システムが機能するか確かめる。時速25,000マイルで大気圏に再突入するOrionが月からの飛行に耐えられるか確かめる。このミッションなしに月面着陸は計画できない。
4人の宇宙飛行士が低地球軌道に入り、SpaceXとBlue Originの月着陸船とドッキングする。月面には行かず、ドッキング手順とAxiom Space製の月面スペースシャツの検証のみ実施。
4人のうち2人が月の南極に降り立つ。約1週間滞在し、4〜5回の船外活動を実施する予定。目標は、水の氷が存在する可能性のある永久影クレーターへの到達だ。
月面基地の建設開始。NASAは2035年頃のArtemis Xまで毎年着陸を計画している。並行して、Blue Origin、Astrobotic、Intuitive Machinesによるロボット探査ミッションも続く。
北京は2030年までに独自の有人月面着陸を計画している。2026年8月には嫦娥7号(Chang’e 7)が打ち上げられる予定で、永久影クレーターの水氷探索を行う”ホッピング探査機”を搭載している。Artemis IVと同じ目標だ。宇宙競争は止まることなく、並行して進んでいる。
よくある質問
最初の着陸はArtemis IVとして2028年初頭に予定されている。2人の宇宙飛行士が月の南極付近で約1週間を過ごす計画だ。予定通り進めば、1972年12月以来初めて人類が月面に立つことになる。
Artemis IIは、実際に人を乗せた状態でOrionとSLSの生命維持システム、航法、通信、月からの帰還時の大気圏再突入を検証するミッションだ。この検証なしに着陸は計画できない。フライトシミュレーターを何時間も経験しないまま初フライトに臨めないのと同じことだ。
最大の原因はSpaceXによるStarshipの軌道上給油技術の遅れだ。着陸船が月まで飛ぶには、軌道上で約1,500トンの燃料を補給する必要がある。この技術はまだ確立されていない。2026年4月時点で、Starshipのテスト飛行11回はすべてサブオービタルにとどまっていた。
公式にはそうだ。月は火星飛行に必要な技術を実証するための試験場と位置づけられている。NASAは核推進宇宙船SR-1 Freedomを開発中で、2028年12月の火星飛行を想定している。ただし、そのスケジュールがどこまで現実的かは、まだ誰にも分からない。
ミッションの技術構成——概要
月への飛行に不可欠な3つの主要要素を整理する。
| 要素 | 概要 | 主なスペック |
|---|---|---|
| SLSロケット | スペースシャトル技術をベースにした超大型ロケット | 全高98m、推力880万ポンド、打ち上げコスト約40億ドル |
| Orion宇宙船 | 4人乗りカプセル、Airbus製の欧州サービスモジュールを搭載 | 居住容積8.95㎥(Apollo比50%増)、最大21日間の自律飛行が可能 |
| Starship HLS | 月面降下用のSpaceX製着陸船(Artemis IV以降で使用) | 全高約50m、月飛行前に軌道上で約1,500トンの燃料補給が必要 |
SLSに搭載されているRS-25エンジンは、スペースシャトルで実際に使用されたエンジンそのものだ。2011年のシャトル計画終了後、オービターから取り外し、改良を加えてSLSに転用した。各エンジンはシャトル時代に平均3〜4回の飛行経験を持つ。